最初に入った店は、3ヶ月でほぼ稼げなかった。自分に向いていないのか、それとも店が合っていないのか、その区別がついていなかった。移籍したのは4ヶ月目だった。移籍先で同じことをやったら、売上が全然違った。その差が「店の構造の差」だったと気づいたのは、辞めてから取材を始めてしばらく経ってからだ。

EDITOR'S JUDGEMENT
即確認
入店時の契約書を今すぐ手元で確認する。引き抜き条項の期間・範囲・違約金の有無が書いてあるはず。持っていなければ店に「コピーください」と言う権利がある。
要注意
引き抜き条項が「1年超」「歌舞伎町全域」「風俗業界全般」など過度に広い場合。法的に無効になり得る条項でも、心理的圧力で動けなくなる人が多い。
低リスク
退店意思をLINEで書面として残した。契約書コピーを持っている。書面にない請求は払う法的義務が生じない可能性が高い。

SECTION 01移籍した日のこと

退店を告げたのは夜の営業前、店長との2人の時間だった。「考え直せ」とは言われなかった。ただ「引き抜き禁止の誓約書にサインしてもらう」という話になった。その場で読んだら、退店後1年間は同エリアのホストクラブへの移籍禁止、と書いてあった。

1年というのは、業界の実態と比べても長い。俺はその場でサインしなかった。「内容を確認させてほしい」と言って、控えを持ち帰った。過度に広い競業禁止は職業選択の自由を侵害するとして法的に無効になり得ると後で確認した。「サインしないなら退店できない」とは言われなかった。言ったとしても、退職の意思表示は一方的に行使できる権利だ。

移籍金は請求されなかった。店によっては「育成費」「研修費の返還」という名目で金銭を要求するケースがある。入店時の契約書にその条項が書いてあるかどうかが、払う義務があるかの分岐点になる。俺の場合は書いていなかった。だから払わなかった。

あの時、入店時の契約書のコピーを持っていなかったら、もっと揉めていた可能性がある。「書面に書いてある」と言われたら確認できない。手元に証拠がなければ判断できない。 HOSMEDI A / EX-HOST KABUKICHO 4YRS

SECTION 02揉める退店と円満退店——分岐点の比較

取材と相談で聞いてきた中で、揉める退店と揉めない退店の違いをひとことで言うなら「書面を持っているかどうか」に尽きる。これだけで7割の結果が変わると思っている。

状況 円満になりやすいケース 揉めやすいケース
契約書 入店時の書面(契約書)のコピーを手元に持っている 契約書の控えがない。店長の口頭説明しか記録がない
退店意思の記録 退店意思をLINEで書面として残した 退店意思を口頭だけで伝えた(日時の証拠がない)
引き抜き条項 引き抜き条項の期間・範囲を入店前に把握していた 「育成費」「研修費返還」等の条項を確認せずに入店した
最終給与 最終日に書面での給与内訳受領を求め、納得できない控除には署名しなかった 「諸経費」「業務上の損害」等の曖昧名目の控除に黙ってサインした

引き抜き条項——長期・広範囲は無効になり得る

業界でよく見る引き抜き禁止条項は「退店後◯ヶ月間、同エリアの競合店への移籍禁止」という形だ。期間が6ヶ月以内で地理的範囲が合理的なものは一定の効力を持つケースもある。ただ1年超の禁止期間や「歌舞伎町全域」「風俗業界全般」みたいに広すぎる制限は、職業選択の自由を侵害するとして法的に無効とされてきた経緯がある。

怖いのは、法的に無効であっても「違反したら訴える」という圧力で心理的に動けなくなる人が多いことだ。条項の内容を確認し、有効性に疑問があれば専門家に相談する。「内容を確認したい」と言うのは、それ自体は何も問題ない。

違約金・移籍金——書面にない請求は払う義務がない

「移籍する場合は移籍金が発生する」という話を面接時に口頭でされるケースがある。ただし労働基準法第16条は、違約金・損害賠償額の予定を契約で定めることを原則禁止している。「入店時に支払った研修費の返還」という名目であっても、入店時の書面に明示されていることが前提だ。書面にない請求は、払う法的義務が生じない可能性が高い。

SECTION 03移籍で売上が伸びる人と落ちる人

正直に言うと、移籍すれば誰でも伸びるわけじゃない。俺は伸びたが、周りで移籍して3ヶ月で辞めた人間も見た。差は移籍先の選び方だった。「今の店を出たい」という衝動だけで動くと、次の店を選ぶ目が鈍る。

移籍先を選ぶとき、最初に確認したのはバック率じゃなかった。「新人に客が来る仕組みがあるか」だった。1軒目でまったく客が来なかった理由がそこにあると分かっていたから。移籍先の面接で「新人のうちに既存客のグループ来店に同席させてもらえるか」を聞いた。「基本的にやってる」という答えだった。実際、最初の月に先輩の卓に呼ばれて客と話す機会が2回あった。その2回がきっかけで指名が生まれた。1軒目の3ヶ月間、ゼロだったのとの差がそこだった。

「衝動移籍」で落ちた人の話

知り合いで2軒目を3ヶ月で辞めた人間がいる。「今の店が嫌だから出た」という話で、移籍先を選ぶ際に条件をほぼ確認していなかった。バック率も、ノルマの有無も、新人サポートの話も、何も聞かずに「雰囲気が良さそうだった」で入った。3ヶ月後に「やっぱり稼げない」と相談が来た時点ではもう手遅れで、また移籍するか、辞めるかの2択になっていた。

移籍は店を変えるだけでは何も変わらない。変えるべきは「稼げない原因」であって、原因を特定しないまま動くと同じ状況が繰り返される。

SECTION 04移籍前のチェックリスト

移籍を考えているなら、動く前にこれだけは確認してほしい。「移籍したい気持ち」と「移籍できる状況かどうか」は別の話だ。

PRE-TRANSFER CHECK — 移籍を決める前の7点確認

SECTION 05困った時の相談先

移籍時の書面トラブル・違約金請求・引き抜き条項について専門的な判断が必要な場合の相談先はこの3つだ。

労働基準監督署 — 違約金・最終給与の控除・労働条件の問題は、新宿区を管轄する新宿労働基準監督署で相談可。匿名相談にも対応している。

法テラス — 弁護士相談を低額(条件によっては無料)で利用可。引き抜き条項の有効性など法律判断が必要な場面で活用できる。

ホスメディA — 業界経験から契約書の読み方・業界の慣行との照合をサポート。源氏名のままLINEで相談可。

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